蝶ヶ岳ボランティア診療班

診療所採用薬剤

薬剤カタログ

1.薬剤
2.衛生材料

医薬品の添付文書情報についてはこちらでご確認ください。


薬剤採用指針について

蝶ヶ岳ボランティア診療班で使用する医薬品はWHOのModelList of Essential Medicinesを参考に採用を決めています。

エッセンシャルドラッグの利点

エッセンシャルドラッグ・モデルリストは、世界の国々が自国の医療に不可欠な医薬品を選ぶ際のたたき台になるものとして、WHOによって約300種類が選択されています。このリストには古くから使われている薬が多く、薬理作用と副作用などの性質がよく研究されて、安全性の観点からも価格の観点からも、利用価値の高い薬剤です。

日本では現在、商品名で17000種類、成分で約2400種類の薬剤が販売されています。さらに、新しい成分として毎年20~50種類が認可されています。新薬は必ずしも期待されるほどの薬理効果を示さずに、副作用が多いために短期間の間に販売が中止されるケースもあります。

蝶ヶ岳ボランティア診療所は、むやみに新薬を追い求めるのではなく、原則的にエッセンシャルドラッグ・モデルリストから薬剤を採用します。

(参考「世界のエッセンシャルドラッグ」浜 六郎、別府宏圀 三省堂)

薬剤を選択する上での、蝶ヶ岳ボランティア診療所の特殊性

1)副作用の危険性:
アナフィラキシーショック、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症などの重篤な薬物副作用が発生すると遠隔地医療の現場では対処しきれません。救急医療の原則として、皮内反応が必要な種類の抗生物質は使用しません。重篤な副作用の危険性がある薬剤は採用しません。

2)常温での安定性:
診療所には冷蔵庫がありません。選択される薬剤は常温で安定で、現場で簡便に使用できる形状である必要性があります。

3)数量の限定:
診療所には専属の薬剤管理責任者が常駐しません。薬剤の管理数が増えると、間違いが発生する危険性も増えます。採用する際は、共通する薬効がある場合は、重症例に適用できるか、適応範囲が広いか、副作用が少ないか、使い勝手がよいか、などの諸因子を吟味して、薬効ごとに代表的な薬剤を原則として1種類だけを採用します。1つ新しい薬剤を採用するためには、それまで使っていた薬剤を1つ削除するほどの覚悟で選択したいと考えます。

過去の薬剤採用/不採用の経緯

1998年(開所1年目):約100種の薬剤を準備しました。
2000年(開所3年目):約100種に加えて、参加される医師の皆様が持ち込まれる薬剤が追加されて、自然に薬剤の種類が増えて、それぞれの安全性や使用期限などを把握できなくなってきた。
2006年(開所9年目):約50種に数を制限し、薬剤を整理しました。

2009年以降の採用/不採用薬剤は以下の通りです。

整理
番号
商品名(一般名) 備考
A-2 ロキソニン錠
(ロキソプロフェンナトリウム)
継続採用
成人用には、強力な鎮痛効果が期待でき嘔吐時にも使えるように ボルタレン坐剤を用意しているので、薬効が重複し、かつエッセンシャルドラッグに採用されていないロキソニンは原則的に不採用となります。 ただし、現場での使用頻度が高いことを鑑みて当面継続して採用します。
(資料:解熱鎮痛剤の禁忌例を以下に示します。
プロピオン酸系 ロキソニン----小児に対する安全性は確立していない。
フェニル酢酸系 ボルタレン----水痘・インフルエンザで小児原則禁忌。
メフェナム酸系 ポンタール----水痘・インフルエンザで小児原則禁忌。
サリチル酸系 アスピリン------水痘・インフルエンザで小児原則禁忌。
アセトアミノフェン系 カロナール--小児にも成人にも使用できる。)
なお、カロナール錠剤(A-54)を小児にも安全性に使える、適用が広い薬剤として2010年度に 新規導入しました。
廃番
A-3
PL顆粒
(非ピリン系感冒剤(4))
2010 削除
サリチル酸系の合剤が入っていることからショッックなどの副作用が警告されています。抗ヒスタミン剤なども含まれているので、感冒症状に対しては処方し易い薬ですが、 単剤処方の原則と、安全性を優先させて削除します。
廃番
A-4
ナウゼリン錠10 2013削除
病院採用の変更に伴い、A-65ナウゼリンOD錠10mgへ変更
廃番
A-5
エンテロノン -R散 2013  削除
箱で発注することに伴い、購入単位のより少ない薬剤で同様の効果を示す薬剤を検討した結果、A-67ビオフェルミンR錠に変更。
廃番
A-8
デパス0.5mg
(エチゾラム細粒)
2010 削除
睡眠障害は高山病で頻繁に見られる不定愁訴の一つです。睡眠不足は集中力を低下させて、不慮の事故の危険性を上昇させる可能性も危惧されます。しかし、山頂の診療活動では常に急性高山病の背景を考えるべきで、呼吸抑制の注意が必要な薬剤を睡眠導入剤として設置するのは 適当でないと判断しました。
廃番
A-10
ロペミンカプセル1mg
(塩酸ロペラミド)
2010 削除
腸の蠕動運動を抑制するために食中毒の治療には適当でないと判断しました。重症の下痢で歩行困難患者には輸液しつつ、ヘリコプターで緊急搬送を選択して下さい。
廃番
A-12
アルサルミン細粒
(スクラルファート)
2010 削除
粉剤で飲みにくいことに加え、これまでの使用量が少ないので削除します。ただし、胃薬を一つはして欲しいという現場からの要望を入れて、エッセンシャルドラッグのリストにあるPPI(プロトンポンプインヒビター)(オメプラール錠(A-58))を新規採用します。
廃番
A-13
フロモックス錠100mg 2016 削除
ダイアモックスとフロモックスの名称が似ていて紛らわしいため、フロモックスを廃止しフロモックスのジェネリック薬であるA-70セフカペンピボキシルを採用した。
廃番
A-18
アトロピン硫酸塩注0.5mg
(硫酸アトロピン)
2010 削除
管理・保存の簡便さという観点から、シリンジ製剤(アトロピン注0.05%シリンジ1ml(A-56))を 新規導入することになりました。
廃番
A-20
ボスミン注1mg
(エピネフリン)
2010 削除
管理・保存の簡便さという観点から、シリンジ製剤(アドレナリン注0.1%シリンジ1ml(A-57))を 導入することになりました
廃番
A-23
メイロン静注 8.4%
(20ml管)
2013 削除
箱で発注することに伴い、購入単位のより少ない薬剤で同様の効果を示す薬剤を検討した結果、A-68メイロン7%20ml 10管入りに変更。
廃番
A-26
ハルトマン液pH:8-「HD」(500ml) 2016 削除
ハルトマン液の販売名変更に伴い、A-71ハルトマン輸液pH8「NP」(500ml)に変更
廃番
A-27
ソリタ-T1号輸液500ml
(電解質液(グルコース含有))
2010 削除
ハルトマン(乳酸リンゲル液)(A-26)は初期輸液として採用継続します。維持液導入の要望があるのでKN3号輸液500ml(A-55)を新採用します。ブドウ糖を加える必要に応じてブドウ糖注射液(A-22)を使って下さい。
A-35 ゲンタシン軟膏10g
(硫酸ゲンタマイシン)
継続採用
抗菌剤としての薬剤としての役割は乏しいですが、清潔なワセリンが 欲しい場合に流用できるので採用を継続します。
廃番
A-38
イドメシンコーワゾル1% 30g
(インドメタシン)
2010 削除
セルタッチ(A-37)があるのでそちらを代用してください。
廃番
A-39
フラビタン点眼液0.05% 5ml
(フラビンアデニンジヌクレオチド)
2010 削除
廃番
A-40
クラビット点眼液 0.5% 2012 削除
病院採用の変更に伴い、A-62クラビット点眼液 1.5%へ変更
廃番
A-41
大塚生食500ml細口開栓
(生理食塩水)
2010 削除
100ml生食(A-31)を使用して下さい。大量の水が必要な場合には滅菌精製水500ml(A-46)も使用可能です。
廃番
A-42
ポピヨドン液 10% 2013 削除
ポピヨドン液を使用するときは消毒キットの中の綿球と鉗子を用いて処置していたが、処置キットの鉗子ではヨードの付いた綿球を把持しづらい、スワブスティックはヨードを染み込ませなければ清潔な綿棒としても利用できる、ということから、ポピヨドン液と消毒キットは廃止され、新たにB-95スワブスティックが採用された。
廃番
A-45
ベンゼットラブ消毒薬0.2%(500ml)
(ベンザルコニウム)
2010 削除
より小型のヒビソフト250ml(A-60)を新規採用します。
廃番
A-46
滅菌精製水 2012 削除
病院採用の変更に伴い、A-64注射用水に変更
A-48 ウロラブスティックSG-L
(検尿テープ)
2013年継続採用
 病院採用の変更に伴い、病院からの寄付が可能なウロラブスティックス(ブドウ糖、ケトン体、潜血、pH、タンパク質、ウロビリノーゲン)と、当診療所で採用中のウロラブスティックスSG-L(ブドウ糖、ケトン体、潜血、pH、タンパク質、ウロビリノーゲン、比重、白血球>)の検討をした結果、より検査項目の多いウロラブスティックスSG-Lを例年通り購入することに決定。
廃番
A-52
プレドニゾロン錠5mg
(プレドニゾロン)
2010 削除
プレドニゾロン錠は2009年まで坑アレルギー反応薬として使用してきました。しかし、抗アレルギー反応薬の選択として抗ヒスタミン薬を導入してほしいという要望が多く、さらに近年、水溶性が強くなり脳血液関門を通過しにくく中枢神経抑制作用が低減した第2世代の抗ヒスタミン薬が使用されるようになってきたため、山頂であるという特殊な環境でも事故が誘発される可能性は低いだろうという判断から、2010年にタリオン(A-59)を新規採用することになりました。それにより、似た目的の薬は置かない原則でタリオンを採用する際にプレドニゾロン錠は削除することにしました。ステロイドが必要な場合にはソル・コーテフ注射薬(A-17)を使用して下さい。
A-53 アデホス-Lコーワ注20mg
(アデノシン三リン酸二ナトリウム)
2009 新規採用
冷所保存薬として分類されていますが、室温であっても1シーズンは大丈夫です。心房細動・心房粗動・上室性頻拍(房室回帰性頻拍・房室結節回帰性頻拍)の治療薬として 重要な薬剤ですので採用しました。
A-54 カロナール錠300mg
(アセトアミノフェン)
2009 新規採用
小児・高齢者でも使いやすい鎮痛解熱剤としてアセトアミノフェンの採用希望がありました。坐薬は体温で融ける設計で冷蔵保存が必要です。散薬は分包作業が必要です。いずれも山岳診療所では対応が難しいので、簡便な取り扱いができる錠剤の形状の薬剤を採用しました。
廃番
A-58
オメプラール錠20 2013削除
病院採用の変更に伴い、A-66ネキシウムカプセル20mgへ変更
廃番
A-60
ヒビソフト消毒液0.2% 2013 削除
病院採用の変更に伴い、A-63ゴージョー60mlに変更
A-67 ビオフェルミンR錠 2013年新規採用
 箱で発注することに伴い、購入単位のより少ない薬剤で同様の効果を示す薬剤を検討した結果、当薬剤が採用された。
A-68 メイロン7%20ml 10管入り 2013年新規採用
 箱で発注することに伴い、購入単位のより少ない薬剤で同様の効果を示す薬剤を検討した結果、当薬剤が採用された。
A-69 生理食塩液PL「フソー」500ml 2015 新規採用
K+フリーの輸液を導入して欲しいという要望のため、採用した。
A-70 セフカペンピボキシル塩酸塩錠100mg「日医工」 2016 新規採用
フロモックスを廃止したため、フロモックスのジェネリック薬を採用した。
A-71 ハルトマン輸液pH8「NP」(500ml) 2016 新規採用
ハルトマン液の販売名変更に伴い、新規採用した。
廃番
B-17
ディスポ手袋 2013  削除
より使い勝手の良く、密着性の高い手袋の導入を検討した。ラテックスアレルギーのことも考え、ニトリル製の手袋B-93ニトリル手袋MとB-94ニトリル手袋Sが採用された。
B-28 処置キット 2012 変更
処置キットの中に入っているもののうち、金属製の持針器とハサミはオートクレーブをして、再び山頂で使用することになっていたが、処置キットを使うごとにこれらのものがどんどん増えていくことが考えられたため、中身(B-88包装材、B-89処置用持針器、B-90処置用ハサミ、B-91消毒用鉗子、B-92処置用ピンセット)をそれぞれ採用しなおして、B-89~92については、使用後に下界で滅菌して再び使用することとした。
廃番
B-51
消毒キット A-42 と同様
廃番
B-59,60
鼻孔カニューラ(L・M) 2012 削除
B-2の酸素マスクと使用用途が被るため、廃番とした。
B-85 ステリストリップ 2012 新規採用
縫合に慣れていない医師には、山頂のような不衛生な環境では、清潔な縫合を行うことが困難であることから新規採用することとなった。
B-86,87 ソフトシーネ
(指用、上肢用)
2012 新規採用
既に採用されていたB-40、41のソフトシーネは下肢用であるため、上肢や指の骨折へ対応するために採用となった
B-96 アルウェッティ 2014 新規採用
A-46消毒綿エタコットから、病院業務課提供していただけるB-96アルウェッティに変更した。
B-97 注射針(18G) 2015 新規採用
ブドウ糖液などの使用や、洗浄時の使いやすさのため、18Gの注射針を採用した。
B-98,99 針刺し防止機能付きサーフロー針 2015 新規採用
山頂という環境において、針刺し事故を防ぐ必要性が高いため、従来の留置針、翼状針の追加発注はせず、スーパーキャス5を採用した。

薬剤の採用/不採用は、毎年見直しますので、ご意見をお寄せいただければ有り難いです。採用して欲しい薬剤に関する情報を提供して下さい。

・ 具体的に遭遇した症例(重症度、頻度)
・ 現在ある薬剤と比較して、代替ができない理由。
・ 保管投与法などの安全性。

採用時の量・規格・剤型などのご希望をお知らせいただけますようにお願い申し上げます。
連絡先:蝶ヶ岳ボランティア診療班パソコンメーリス cyogatake@umin.ac.jp
または参加者アンケートにご記入ください。

個人持ち込み薬剤の持ち帰りのお願い

参加医師の皆様の厚意で個人持ち込み薬剤を使うこと自体に制限はありません。しかし山頂診療所に私物を残されても、管理者側が使用期限や残存量の把握ができませんので破棄せざるをえません。公式に診療所薬剤管理薬として採用されるまでは、お持ち帰りをお願いいたします。(医療器具についても同様です)